ウォーターポジティブとは?意味・企業事例・個人の取り組みを解説

ブルーカーボン・環境保全

「ウォーターポジティブ」という言葉を、企業のサステナビリティ報告書やニュース記事で目にする機会が増えていませんか。MicrosoftやGoogleといったグローバル企業が相次いで「2030年までにウォーターポジティブを達成する」と宣言し、国内でもサントリーがいち早く取り組みを進めています。しかし、「カーボンニュートラルの水版?」「具体的に何をすればいいの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

国連の推計によると、現在の消費パターンが続けば2030年までに世界の淡水供給は必要量の40%が不足するとされています。水リスクは、もはや一部の乾燥地域だけの問題ではなく、企業経営やサプライチェーン全体に直結するグローバルな経営課題です。

この記事では、ウォーターポジティブとは何かをわかりやすく解説し、注目される背景から企業の具体的な取り組み事例、個人でできるアクション、そして今後の課題まで網羅的にお伝えします。水資源の持続可能な未来に向けた第一歩として、ぜひ最後までお読みください。

  1. ウォーターポジティブとは?意味と定義をわかりやすく解説
    1. ウォーターポジティブの基本的な考え方
    2. ウォーターニュートラルやネットゼロウォーターとの違いは?
    3. なぜ国際的に統一された定義がまだないのか
  2. なぜ今ウォーターポジティブが注目されているの?3つの背景
    1. 深刻化する世界の水不足問題
    2. 企業経営を揺るがす「水リスク」の拡大
    3. ESG投資・CDP水セキュリティ評価の高まり
  3. ウォーターポジティブを実現するための2つのアプローチ
    1. 水の供給量を増やす取り組み(水源涵養・水質改善)
    2. 水の消費量を減らす取り組み(節水・再利用・雨水活用)
    3. ウォーターフットプリントで自社の水使用量を可視化する
  4. ウォーターポジティブに取り組む企業事例5選
    1. サントリー ── 汲み上げる地下水の2倍以上を森で育む
    2. Microsoft ── 2030年までのウォーターポジティブ達成を宣言
    3. Google ── テクノロジーで水ストレスの予測と防止に挑む
    4. 花王 ── 製品ライフサイクル全体で水利用効率を改善
    5. Nestlé ── 「ゼロウォーター工場」で外部水の使用をゼロに
  5. 個人でもできるウォーターポジティブな4つのアクション
    1. 毎日の暮らしで水をこまめに止める
    2. 生活排水の汚れを減らす工夫
    3. バーチャルウォーターを意識した買い物
    4. ウォーターポジティブ企業の商品を選ぶ
  6. ウォーターポジティブとSDGs・カーボンニュートラルの関係
    1. SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」との接点
    2. カーボンニュートラルとの共通点と決定的な違い
  7. ウォーターポジティブの今後の課題と展望
    1. 統一的な定義と測定基準の確立
    2. 「量」だけでなく「質」と「場所」の評価が必要な理由
  8. まとめ ── ウォーターポジティブとは企業と個人の未来への投資
  9. Ken’s eye

ウォーターポジティブとは?意味と定義をわかりやすく解説

ウォーターポジティブの基本的な考え方

ウォーターポジティブとは、企業や組織が事業活動で消費する水よりも多くの水を自然環境や地域社会に還元する、という考え方です。環境省は「事業で消費するよりも多くの淡水資源を供給する考え方」と位置づけており、単に水を節約するだけでなく、使った以上の水を「プラス」にして地球に返すことを目指しています。

具体的には、水源涵養のための森林保全や、排水を浄化して地域の水資源として再生させる取り組み、雨水の積極的な活用などが含まれます。ウォーターポジティブの実現には大きく分けて「水の消費量を減らす」アプローチと「水の供給量を増やす」アプローチの2つがあり、両面から水資源の持続可能な管理を目指します。

重要なのは、ウォーターポジティブが単なるスローガンではなく、定量的な目標を伴う経営戦略として位置づけられ始めている点です。WWFの報告書によれば、世界の水と淡水生態系の経済的価値は年間約58兆米ドルにのぼり、世界のGDPの約60%に相当します。水は企業にとって「タダで使える資源」ではなく、膨大な経済価値を持つ経営資源なのです。

参考:環境省|ウォータープロジェクト

ウォーターニュートラルやネットゼロウォーターとの違いは?

ウォーターポジティブと混同されやすい概念に「ウォーターニュートラル」と「ネットゼロウォーター」があります。それぞれの違いを整理しましょう。

概念意味目指す水準
ウォーターニュートラル消費した水と同量を還元するプラスマイナスゼロ
ネットゼロウォーター外部からの取水量を実質ゼロにする自己完結型の水循環
ウォーターポジティブ消費量を上回る水を自然や地域に供給するプラスの貢献

つまり、ウォーターニュートラルが「±ゼロ」を目指すのに対して、ウォーターポジティブは「使った以上に返す=プラスにする」という、より高い水準の目標です。カーボンニュートラルに対するカーボンネガティブ(カーボンポジティブ)の関係に近いと言えます。

なぜ国際的に統一された定義がまだないのか

実は、ウォーターポジティブには国際的に統一された厳密な定義がまだ確立されていません。その理由のひとつは、水資源がCO₂とは根本的に異なる性質を持っているからです。

CO₂は大気中にグローバルに拡散するため、排出場所に関係なく削減効果を計算できます。しかし水は、特定の流域・特定の時期に存在することが重要な「ローカル資源」です。ある地域で水を大量に還元しても、別の水不足地域の問題は解決しません。さらに、水の「量」だけでなく「質」も問われるため、単純な数値比較が難しいのです。

WWFもこの点を指摘しており、GHG排出のネットゼロの考え方をそのまま水に当てはめることにはリスクがあると警告しています。取水量と消費量のどちらを基準にするか、還元する水の水質をどう評価するかなど、測定基準の標準化が今後の重要な課題です。

参考:WWF|”Net Positive Water” Considering its role in water stewardship

なぜ今ウォーターポジティブが注目されているの?3つの背景

深刻化する世界の水不足問題

ウォーターポジティブが注目を集める最大の背景は、世界規模で進行する水不足問題です。地球上の水の大部分は海水であり、人間が利用しやすい河川や湖沼の淡水は全体のわずか約0.01%にすぎません。

国連広報センターによれば、現在の消費と生産パターンが変わらなければ、2030年までに世界の淡水供給は必要量の40%が不足するとされています。さらに、UNESCOの予測では、2030年には世界人口の47%が水不足に陥る可能性があるとも報告されています。人口増加や気候変動による干ばつの頻発化、都市化の加速が、水資源への圧力を急速に高めているのです。

日本も決して例外ではありません。毎年のように各地で渇水が発生し、農業用水の不足が報じられています。一見、水に恵まれているように見える日本ですが、食料を大量に輸入することで間接的に海外の水資源(バーチャルウォーター)に依存している現実があります。

参考:国際連合広報センター|水の国際行動の10年

企業経営を揺るがす「水リスク」の拡大

水不足は環境問題であると同時に、企業にとっての重大な経営リスクです。世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書」では、「水危機」が2012年以降8年連続で影響度の大きいリスクに挙げられてきました。

世界銀行の報告書「水リスクとその影響」によると、水不足が最も深刻な中東・北アフリカ地域では、2050年までにGDPの6〜14%に相当する経済損失が予測されています。また、WWFの推計では、水と淡水生態系の保全や回復がなされなければ、2050年までに世界のGDPの最大46%が水リスクの高い地域からもたらされる可能性があるとされています。

製造業やIT企業のデータセンターなど、水を大量に使用する事業を展開する企業にとって、水の安定供給は事業継続の前提条件です。水リスクが顕在化すれば、操業停止やサプライチェーンの寸断に直結します。ウォーターポジティブへの取り組みは、こうしたリスクに対する先手の備えとしても重要性を増しています。

ESG投資・CDP水セキュリティ評価の高まり

投資家が企業を評価する際に、水リスクへの対応力を重視する動きが世界的に加速しています。その代表的な枠組みが、国際NPOであるCDPが運営する「CDP水セキュリティ」プログラムです。

CDP水セキュリティでは、企業の水に関する取り組みをA〜Dの4段階で評価します。CDP水セキュリティ 2021のレポートによると、日本からは37社がAリスト(最高評価)に選定され、これは世界最多の国別選定数でした。この事実は、日本企業の水リスク対応が国際的にも先進的であることを示す一方、まだ取り組みが不十分な企業との差が開きつつあることも意味しています。

ESG投資の拡大に伴い、機関投資家はポートフォリオ企業に対して水リスク情報の開示を求める傾向を強めています。ウォーターポジティブの目標を掲げ、具体的な行動計画と進捗を公開することは、企業価値の向上と資金調達の両面で大きなアドバンテージとなるのです。

参考:商船三井|2030年 世界の水供給は40%不足?!意外と身近な水リスク

ウォーターポジティブを実現するための2つのアプローチ

水の供給量を増やす取り組み(水源涵養・水質改善)

ウォーターポジティブの達成には、まず「自然界に戻す水の量や質を増やす」という供給面のアプローチがあります。環境省が整理したウォーターポジティブに資する取り組みの中でも、この供給面は重要な柱のひとつです。

代表的な取り組みとして、水源涵養のための森林保全があります。健全な森林は「緑のダム」とも呼ばれ、降った雨を地下水として蓄え、ゆっくりと河川に供給する機能を持っています。企業が水源地周辺の森林を保全・再生することで、長期的に安定した水の供給量を確保できます。

もうひとつの重要なアプローチが排水の水質改善です。使用済みの水を高度に浄化して自然環境に還元したり、地域の水道インフラを支援したりする活動がこれに該当します。ウォーターポジティブにおいては、「量」だけでなく「質」の高い水を還元することが求められる点が、カーボンオフセットとの大きな違いです。

参考:環境省|自然資本の経済的価値評価の活用可能性について

水の消費量を減らす取り組み(節水・再利用・雨水活用)

供給を増やすだけでなく、「使う水そのものを減らす」消費削減のアプローチも不可欠です。具体的には以下のような取り組みが挙げられます。

  • 工場やオフィスでの節水技術の導入:節水型の配管設備やトイレ、冷却水の循環利用などにより、事業活動に伴う水使用量を直接的に削減する
  • 排水の再利用(リユース):工程で使用した水を浄化し、非飲用水として再利用する。データセンターの冷却水や、工場の洗浄水などが代表例
  • 雨水・再生水の積極活用:敷地内に降った雨水を貯留し、散水やトイレ用水として活用する。下水処理水を再生して利用する取り組みも広がっている

これらの消費削減策は、水道料金や排水処理コストの低減にも直結するため、コスト面でもメリットがあります。環境省の分類では、節水・雨水利用・再生水利用が消費削減の3本柱として整理されており、どの企業でも比較的取り組みやすい施策と言えるでしょう。

ウォーターフットプリントで自社の水使用量を可視化する

ウォーターポジティブを実現するためには、まず「自社がどれだけの水を使っているのか」を正確に把握する必要があります。そこで重要になるのがウォーターフットプリントという指標です。

ウォーターフットプリントとは、製品やサービスの原材料調達から製造・流通・使用・廃棄に至るまでのライフサイクル全体で消費される水の総量を算出したものです。カーボンフットプリントの「水版」と考えるとわかりやすいでしょう。

さらに実践的なツールとしては、世界資源研究所(WRI)の「Aqueduct」や、WWFの「Water Risk Filter」などがあります。これらのツールを使えば、自社の事業拠点やサプライチェーンの各地点における水ストレス(水需要がひっ迫している状態)の程度を評価できます。水使用量の可視化と水リスクの評価は、ウォーターポジティブ戦略を策定する上での出発点となります。

ウォーターポジティブに取り組む企業事例5選

サントリー ── 汲み上げる地下水の2倍以上を森で育む

国内でウォーターポジティブの先駆的な取り組みを進めているのがサントリーです。同社は「Water Positive」をコーポレートメッセージに掲げ、工場で汲み上げるすべての地下水量の2倍以上の水を涵養する活動を続けています。

具体的には、全国26か所、総面積12,000ha以上におよぶ「サントリー天然水の森」を設定し、20年以上にわたって森林保全活動を実施しています。森林の整備によって土壌の保水力を高め、雨水が地下に浸透しやすい環境を維持することで、地下水の涵養量を増やしているのです。飲料メーカーとして水を大量に使用する立場だからこそ、「使った以上に返す」という姿勢は説得力があり、消費者からの信頼獲得にもつながっています。

参考:サントリー|ウォーターポジティブ

Microsoft ── 2030年までのウォーターポジティブ達成を宣言

Microsoftは2020年に、2030年までに消費量を上回る水を補給する「ウォーターポジティブ」の達成を宣言しました。同社は世界各地にデータセンターを運営しており、サーバーの冷却に大量の水を使用しています。

Microsoftの取り組みは多岐にわたります。敷地内の雨水や再利用した排水を非飲用水として活用するほか、データセンターの冷却水削減技術の導入、節水効果の高い配管設備の採用、安全な水へのアクセスを目指すNGOへの支援、河川や湖沼の水資源回復プロジェクトへの参加など、包括的なアプローチを展開しています。テクノロジー企業ならではのデータ管理ツールの開発・提供も特徴的です。

参考:Microsoft|2030年までに消費量を上回る水を補給

Google ── テクノロジーで水ストレスの予測と防止に挑む

Googleも2030年までのウォーターポジティブ達成を目標に掲げています。同社の特徴は、自社のテクノロジーを水問題の解決に活用している点です。

たとえば、機械学習を活用した「BlueConduit」では、専門知識がなくても排水管の交換費用を見積もれるなど、効率的な水インフラの改善を支援しています。また、UNEPや欧州委員会の共同研究センターと共同開発した「Freshwater Ecosystem Explorer」は、地表水の変化を可視化・定量化できる地理空間プラットフォームで、各国の政策決定者が淡水系のデータに直接アクセスできるようになっています。

自社の事業における水使用の効率化にとどまらず、水問題の解決そのものにテクノロジーで貢献するという姿勢は、IT企業ならではのウォーターポジティブの形と言えるでしょう。

参考:Google|水使用量の削減、補給、水質改善への取り組み

花王 ── 製品ライフサイクル全体で水利用効率を改善

日用品メーカーの花王は、製品のライフサイクル全段階にわたって水の利用効率を改善するという、ユニークなアプローチを取っています。

生産段階では、工場ごとに水使用量の削減目標を設定し、3R(Reduce・Reuse・Recycle)の観点で水の使用量削減と再利用を推進。使用段階では、すすぎの回数が少なくて済む洗剤や、少ない水で洗える製品の開発を通じて、消費者の家庭での節水に貢献しています。さらに廃棄段階では、環境中で容易に分解される原料の使用に取り組み、排水負荷の低減を目指しています。

製品を通じて「消費者と一緒に節水する」という発想は、BtoC企業ならではのウォーターポジティブの実現方法です。自社の工場だけでなく、製品が使われるすべての場所で水への貢献を目指す姿勢が評価されています。

参考:環境省|ウォータープロジェクト参加団体 花王(株)

Nestlé ── 「ゼロウォーター工場」で外部水の使用をゼロに

スイスに本社を置く世界最大級の食品・飲料メーカーNestléは、「ゼロウォーター工場」という革新的な取り組みで注目を集めています。この工場では外部からの新しい水を一切使用せず、製造過程で使用した水を浄化・再利用することで、水の使用を実質ゼロに抑えています。

特に水不足が深刻な地域での工場運営において、このゼロウォーター技術は大きな意味を持ちます。また、農業分野でもドリップ灌漑や土壌水分センサーを導入して水の使用効率を高めるなど、サプライチェーン上流にも働きかけています。

Nestléの事例は、技術革新によって「水を全く使わない工場」が実現可能であることを示しており、ウォーターポジティブの先にある理想的な姿のひとつと言えるでしょう。

個人でもできるウォーターポジティブな4つのアクション

毎日の暮らしで水をこまめに止める

ウォーターポジティブな社会の実現には、企業の取り組みだけでなく、一人ひとりの日常的な行動も欠かせません。最も基本的で効果的なアクションは、水をこまめに止めることです。

歯磨きの際に水を出しっぱなしにすると、約6リットルもの水が無駄になると言われています。手洗いや食器洗いの際もこまめに蛇口を閉める、節水シャワーヘッドに交換する、洗濯はまとめて行うなど、小さな積み重ねが大きな節水効果につながります。日本の家庭の水使用量は一人あたり一日約220リットル前後とされており、意識的な節水で1〜2割の削減も十分に可能です。

生活排水の汚れを減らす工夫

節水と同時に意識したいのが、排水の「質」です。家庭から出る生活排水の汚れを減らすことも、水資源の保全に直結するウォーターポジティブなアクションです。

食器についた油汚れは、そのまま流すのではなく紙や布で拭き取ってから洗う。環境に配慮した洗剤や掃除用品を選ぶ。食べ残しや飲み残しを排水口に流さない。これらの工夫によって、下水処理場の負担を軽減し、河川や海に戻る水の質を改善できます。ひとつひとつは小さなことですが、日本全国の家庭で実践されれば、その効果は計り知れません。

バーチャルウォーターを意識した買い物

日常の買い物でもウォーターポジティブに貢献できます。その鍵となる概念が「バーチャルウォーター(仮想水)」です。バーチャルウォーターとは、食品や製品を生産する過程で使われた水の総量のことを指します。

たとえば、牛肉1kgを生産するのに約15,000リットルもの水が必要とされています。水不足が深刻な地域で生産された食品を大量に輸入・消費することは、間接的にその地域の水資源を消費していることになります。国内で生産された食品を選ぶ、旬の食材を購入する、フードロスを減らすといった行動は、バーチャルウォーターの観点からも水資源保全に貢献するアクションです。

ウォーターポジティブ企業の商品を選ぶ

個人が間接的にウォーターポジティブに貢献する方法として、水資源に配慮した取り組みを行っている企業の商品やサービスを意識的に選ぶことも効果的です。

たとえば、サントリーの天然水を購入することは、同社の森林保全活動を間接的にサポートすることにつながります。花王の節水型洗剤を使えば、自分の家庭での水使用量も減らせます。消費を通じて企業のウォーターポジティブな活動を応援するという選択は、誰にでもできるアクションです。企業の環境報告書やサステナビリティレポートをチェックして、水への取り組みが進んでいる企業を応援する「消費による投票」を意識してみてはいかがでしょうか。

ウォーターポジティブとSDGs・カーボンニュートラルの関係

SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」との接点

ウォーターポジティブの取り組みは、SDGs(持続可能な開発目標)の目標6「安全な水とトイレを世界中に」の達成と密接に結びついています。この目標は、2030年までにすべての人が安全で手頃な価格の飲料水にアクセスでき、適切な衛生設備を利用できる社会の実現を目指しています。

ウォーターポジティブに取り組む企業が水源の保全や水質改善を推進することは、その地域の安全な水の供給量を増やすことに直結します。また、SDGsの目標6の達成は、健康(目標3)、教育(目標4)、食料(目標2)など、他の多くのSDGs目標の基盤にもなっています。国連広報センターも、目標6の達成が他のすべてのSDGsの達成にも波及効果をもたらすと指摘しています。

さらに、2018年から2028年にかけて実施されている国連の「持続可能な開発のための水」の国際行動の10年も、ウォーターポジティブの潮流を後押しする国際的な枠組みとなっています。

カーボンニュートラルとの共通点と決定的な違い

ウォーターポジティブは、カーボンニュートラルとしばしば比較されます。「事業活動による負の影響をゼロ、あるいはプラスにする」という思想は共通しています。しかし、両者には決定的な違いがあります。

CO₂は大気中に均一に拡散するグローバルな物質です。そのため、ある国で排出されたCO₂を、別の国での植林で相殺するオフセットが理論上成り立ちます。一方、水はローカルな資源です。A地点で大量の水を使い、まったく別のB地点で水源を涵養しても、A地点の水不足は解決しません。

つまり、ウォーターポジティブでは「どの場所で」「どの時期に」「どんな質の水を」還元するかが極めて重要になります。WWFがGHGのネットゼロの枠組みをそのまま水に適用することにリスクがあると指摘するのも、この水の地域性・時間性・質の多面性ゆえです。カーボンニュートラルと同様の意義を持ちながらも、より複雑で繊細な対応が求められるのがウォーターポジティブの特性と言えるでしょう。

ウォーターポジティブの今後の課題と展望

統一的な定義と測定基準の確立

ウォーターポジティブの普及に向けて最大の課題は、国際的に統一された定義と測定基準がまだ確立されていないことです。企業ごとに「何をもってウォーターポジティブとするか」の解釈が異なるため、取り組みの比較や第三者評価が難しい状況にあります。

今後は、水の取水量・消費量・還元量を標準化された手法で測定し、報告するフレームワークの整備が求められます。VWBA(Volumetric Water Benefit Accounting:水の保全活動がもたらす効果を評価する手法)のような定量的な評価手法の活用が進むことで、企業間の比較可能性が高まり、グリーンウォッシュの防止にもつながるでしょう。

「量」だけでなく「質」と「場所」の評価が必要な理由

もうひとつの重要な課題は、水の「量」だけでなく「質」と「場所」を総合的に評価する仕組みの確立です。前述のとおり、水はローカルな資源であり、流域ごとに水ストレスの状況は大きく異なります。

水ストレスが低い地域で大量の水を還元しても、水不足に苦しむ地域の問題解決にはなりません。また、汚染された水を大量に戻すだけでは「ポジティブ」とは言えません。今後は、各事業拠点の流域ごとの水リスクを科学的に評価し、その地域で本当に必要とされている水の量と質を満たす形での還元が求められていくでしょう。

ウォーターポジティブは発展途上の概念ですが、水資源の持続可能な管理という目標に向けて、企業と社会が一歩一歩前進するための強力な指針であることは間違いありません。定義の精緻化と測定方法の標準化が進むことで、より実効性のある水資源保全の枠組みへと進化していくことが期待されます。

まとめ ── ウォーターポジティブとは企業と個人の未来への投資

ウォーターポジティブとは、消費した水よりも多くの水を自然や地域社会に還元する考え方であり、深刻化する世界の水不足問題への有力な解決策として注目されています。

企業にとってウォーターポジティブへの取り組みは、水リスクの低減、ESG評価の向上、ブランド価値の強化という多面的なメリットをもたらします。サントリーやMicrosoft、Google、花王、Nestléといった先進企業はすでに具体的な目標と行動計画を持ち、水の供給量の増加と消費量の削減の両面から取り組みを加速させています。

一方で、ウォーターポジティブの実現には、統一的な定義の確立や、水の「質」「場所」「時期」を含めた多面的な評価手法の開発など、残された課題も少なくありません。カーボンニュートラルのように単純なオフセットが成り立たない水資源の特性を踏まえた、科学的根拠に基づく取り組みが求められます。

そして、ウォーターポジティブな社会の実現は企業だけの課題ではありません。毎日の節水や生活排水への配慮、バーチャルウォーターを意識した消費行動など、個人にもできるアクションは数多くあります。水は、すべてのいのちを支える最も基本的な資源です。ウォーターポジティブという考え方を一つの指針として、企業も個人も「水の未来」に投資していくことが、持続可能な社会への確かな一歩となるでしょう。

Ken’s eye

  • ウォーターポジティブとは、事業活動で消費した水よりも多くの水を自然環境や地域社会に還元する概念であり、「使った以上に返す」ことを目指す持続可能な水資源管理の考え方だ
  • 国連の推計では2030年までに世界の淡水供給が必要量の40%不足する可能性があり、水リスクは企業経営やESG評価に直結する重大な経営課題になっていると考えられる
  • ウォーターポジティブの実現には「水の供給量を増やす」アプローチと「水の消費量を減らす」アプローチの2軸があり、ウォーターフットプリントによる水使用量の可視化が出発点になると考えられる
  • カーボンニュートラルとは異なり、水は場所・時期・水質が問われるローカル資源であるため、流域ごとの科学的評価に基づく取り組みが不可欠だ
  • 企業の取り組みに加え、個人レベルの節水行動やバーチャルウォーターを意識した消費選択も、ウォーターポジティブな社会の実現に大きく貢献すると考えられる
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