日本の水産加工現場では、年間を通じて大量の魚介類が廃棄され続けています。規格外品・加工端材・内臓・骨といった未利用部位は、かつては「出るもの」として処理コストをかけて捨てられてきました。
しかしいま、その構造が大きく問われています。水産業全体の廃棄量は食品廃棄物全体の中でも無視できない割合を占めており、ESG経営や食料安全保障の観点からも、業界としての対応が急務となっています。
この記事では、水産加工分野におけるフードロス削減の現状と課題を整理したうえで、未利用魚や廃棄部位を新たな収益源へと転換する具体的なアプローチを解説します。
6次産業化の成功事例や実践的なビジネスモデル、さらに活用できる補助金・認証制度まで網羅しているため、加工業者・漁業者・流通事業者・サステナビリティ担当者の方々にとって、現場で使える情報が見つかります。フードロスへの取り組みは「コスト負担」ではなく、「事業の競争力」を高める戦略です。ぜひ最後までお読みください。
水産加工現場でフードロスが深刻化している理由──数字で見る廃棄の実態
水産加工の現場では、原料魚の仕入れから製品出荷に至るまで、複数の工程で大量の廃棄物が生じています。頭部・内臓・骨・皮といった「非可食部」はもちろん、加工精度の問題やサイズ規格への不適合、さらには冷蔵・冷凍管理の不備による鮮度劣化など、廃棄が発生する要因は多岐にわたります。
特に日本国内では、水産物の消費形態が「切り身・フィレ」中心へとシフトしたことで、丸魚を加工した際の歩留まりが慢性的に低い状態が続いており、魚種によっては原料重量の40〜60%が廃棄または加工副産物として排出されるとされています。
問題をさらに複雑にしているのが、廃棄の「見えにくさ」です。水産加工場では、製造ラインの途中で発生するトリミングロスや規格外品が、そのまま肥料・飼料向けに転売されるケースも多く、フードロスとして公式統計に計上されない廃棄が相当量存在すると考えられています。
農林水産省が公表するフードロス統計は食品製造業全体を対象としており、水産加工業に特化した廃棄実態の把握は、国内でもいまだ十分に進んでいないのが現状です。加えて、小規模な加工業者が多い業界構造上、データ収集・管理のリソース自体が不足しているという構造的課題も抱えています。
世界に目を向けると、国連食糧農業機関(FAO)の報告では、世界の水産物生産量のおよそ35%が損失または廃棄されているとされており、その多くは漁獲後の処理・加工・流通段階で発生しています。日本の水産加工業はアジア有数の規模を誇る一方、こうしたロス削減への体系的な取り組みは欧米主要国と比べて遅れているとの指摘も少なくありません。フードロス削減を単なるコスト課題ではなく、サステナビリティ経営の核心として捉え直す視点が、今まさに業界全体に求められています。
参考:The State of World Fisheries and Aquaculture 2022|fao.org
未利用魚とは何か?捨てられてきた魚種と廃棄部位の全体像
「未利用魚」とは、漁獲されながらも市場に流通しにくく、これまで十分に活用されてこなかった魚種や魚の部位を指す総称です。その理由はさまざまで、流通量が少なく値段がつきにくい小型魚、外見が独特で消費者に馴染みのない深海魚、あるいは漁の対象種ではなく網に混入してしまう混獲魚(バイキャッチ)などが代表例として挙げられます。日本では年間を通じて多種多様な魚が水揚げされますが、そのなかには産地でそのまま廃棄される、いわゆる「捨て魚」が相当数含まれているとされています。
廃棄される部位という観点でも、問題の規模は小さくありません。水産加工の現場では、切り身や刺身などの製品に加工する際に、頭部・骨・内臓・皮・アラといった部位が大量に発生します。魚の可食部は全体の50〜60%程度にとどまるとも言われており、残りの大部分は従来、肥料や飼料としてわずかな付加価値で処理されるか、そのまま廃棄されてきました。
こうした廃棄部位は「水産加工残渣(ざんさ)」と呼ばれ、フードロス削減の文脈で近年あらためて注目を集めています。
未利用魚や加工残渣の問題は、単なる「もったいない」という話にとどまらず、漁業者の収益改善・水産資源の持続的利用・カーボンニュートラルへの貢献という複数の課題と直結しています。次のセクションからは、こうした未利用資源がどのようなビジネスチャンスとして再定義されつつあるかを、具体的な事例とともに掘り下げていきます。
水産加工×フードロス削減の3つのアプローチ──規格外・端材・内臓を資源に変える
水産加工の現場では、製品として出荷できない規格外魚・加工時に生じる端材(アラ)・廃棄されがちな内臓・骨・皮という3つのカテゴリーが、フードロス削減の主要なターゲットになっています。これらは従来「廃棄コスト」として処理されてきましたが、近年は付加価値を生む資源として捉え直す動きが業界全体で加速しています。
第1のアプローチは規格外魚の加工品転換です。サイズや外観が市場基準を満たさない魚を、フィレーやミンチ、缶詰・レトルト食品へ加工することで、廃棄ゼロに近い利用率を実現できます。第2のアプローチはアラ・端材の高度利用で、骨や皮からコラーゲン・ゼラチンを抽出する技術や、魚のアラをだし原料・魚醤へ転換する手法が国内外で事業化されています。第3のアプローチが注目度の高い内臓由来の機能性素材化です。魚の肝臓や消化器官にはDHA・EPA、消化酵素、ペプチドなどが豊富に含まれており、サプリメント原料や飼料・肥料として活用する研究開発が進んでいます。
3つに共通するのは、「廃棄物」という視点を「未利用資源」へ転換する発想です。水産加工業者にとってはコスト削減と収益源の多様化を同時に実現できるため、サーキュラーエコノミー型のビジネスモデルとして投資家や食品メーカーからの関心も高まっています。ロスを減らすことが環境負荷の低減だけでなく、経営上のメリットにも直結する点が、この分野の取り組みを加速させている最大の要因といえるでしょう。
6次産業化がフードロス削減の切り札になる理由と成功事例5選
水産加工の現場では、魚の切り身を取った後に残るアラや内臓、規格外の魚体など、従来は廃棄されていた部位が大量に発生します。こうした未利用資源を「捨てるもの」として扱うのではなく、新たな製品へと転換する仕組みが6次産業化です。漁業(1次産業)×加工(2次産業)×販売・流通(3次産業)を一体化することで、フードロスの発生源そのものをビジネスモデルに組み込める点が、この取り組みが「切り札」と呼ばれる最大の理由です。
具体的な成功事例を見ると、その効果は明確です。①北海道のサーモン加工業者がアラからコラーゲンパウダーを製造し廃棄率を約40%削減、②長崎県の漁協がイサキの規格外品を使ったフィッシュカレーのレトルト販売で新たな収益源を確立、③宮城県の牡蠣養殖業者が貝殻を農業用土壌改良材として販売し産廃コストをゼロに近づけた事例、④愛媛県のタイ養殖業者が切り身加工後の頭部・骨を魚粉飼料として自社利用するループを構築、⑤高知県の鰹節メーカーが削り節の粉末(花かつお規格外品)をだしパック製品に転用し歩留まりを大幅に改善した事例が挙げられます。
これらに共通するのは、「廃棄物」を原価ゼロの原料として再定義している点です。6次産業化によって付加価値を加えれば、フードロス削減と収益向上が同時に実現できます。初期投資や販路開拓という課題はあるものの、農林水産省の6次産業化支援策や地域商社との連携を活用することで、中小規模の水産加工業者でも参入しやすい環境が整いつつあります。
参考:6次産業化・地産地消法について|maff.go.jp
未利用魚を活用したビジネスモデル──加工・販売・ブランド化の実践ステップ
未利用魚とは、漁獲されながらも外見の不揃いや流通コストの問題によって市場に出回らず、廃棄・投棄されてきた魚種の総称です。国内では漁獲量の2〜3割程度が未利用魚として扱われているとも言われており、水産資源の有効活用とフードロス削減の両面から、近年ビジネスとしての注目度が急速に高まっています。
未利用魚を収益化するには、「加工→販売→ブランド化」の3ステップを段階的に設計することが重要です。まず加工段階では、鮮度管理が難しい魚種でも扱いやすい干物・燻製・缶詰・フィッシュミールへの一次加工が有効です。設備投資を抑えたい場合は、既存の水産加工業者との受託加工契約を活用することで初期リスクを低減できます。
次に販売段階では、ECサイトや飲食店への直販モデルが流通コストの圧縮につながります。特にサブスクリプション型の定期便は、漁獲量が不安定な未利用魚との相性が良く、計画生産を促しながら安定収益も見込めます。
最後のブランド化こそが、価格競争から抜け出すための鍵です。「地域性・希少性・サステナビリティ」の3軸をストーリーとして語ることが、消費者の共感と購買行動を引き出します。自治体や漁協と連携して地域ブランドとして認定を受ける手法や、フードロス削減への貢献をパッケージに明示するアプローチは、ESGを重視する法人バイヤーへの訴求にも有効です。未利用魚ビジネスは、小規模からでも参入できる点が強みであり、水産加工の現場に新たな収益モデルをもたらす可能性を秘めています。
参考:未利用食品の活用に関する取組|maff.go.jp
フードロス削減に取り組む水産加工企業が直面する3つの課題と対策
フードロス削減に向けた取り組みは水産加工業界でも広がりつつありますが、実際に推進しようとする企業は複数の壁にぶつかります。
まず1つ目の課題は規格外品・端材の活用ルートが限られていることです。魚のすり身製造や切り身加工の工程では、どうしても形や重量が規格から外れる副産物が発生します。しかしそれを食品として流通させるには、別途の品質管理体制や販売先の開拓が必要となり、中小規模の加工業者ほど対応が難しいとされています。
対策としては、規格外品を原料としたペットフードや魚粉・飼料向けの二次加工ラインを設けることで、廃棄量を減らしながら収益化につなげる取り組みが各地で始まっています。
2つ目の課題は鮮度管理と在庫コントロールの難しさです。水産物は陸上の食品と比べて鮮度劣化が速く、需要予測が外れた際のロスが大きくなりやすい構造を持っています。近年は需要予測にデータ分析を取り入れ、発注量や生産量を精緻にコントロールする企業も増えていますが、導入コストや人材確保がハードルになるケースも少なくありません。
3つ目の課題はコスト面での採算確保です。フードロス削減の取り組みは、廃棄費用の削減という面ではメリットがありますが、新たな設備投資や加工コストが発生することも多く、短期的には収支が悪化するリスクもあります。この点については、補助金や認証制度の活用で初期コストを抑えるとともに、サステナビリティへの取り組みをブランド価値に転換し、販売単価の向上につなげる戦略が有効です。課題を正確に把握したうえで、自社の規模や商流に合った対策を選ぶことが、持続可能なフードロス削減への第一歩となります。
政策・補助金・認証制度をどう活用するか──水産加工事業者が押さえるべき支援策
水産加工事業者がフードロス削減に取り組む際、民間の努力だけでなく公的支援を戦略的に組み合わせることが、投資回収を早める上で非常に重要です。
現在、農林水産省や水産庁が実施する「食品ロス削減対策事業」や「水産加工業施設整備事業」では、残滓処理設備・冷凍・真空包装ラインの導入に対して補助率1/2〜2/3程度の助成が受けられるケースがあります。また中小企業庁のものづくり補助金や事業再構築補助金も、加工工程の自動化・デジタル化によるロス削減を目的とした設備投資に適用できる場合があるため、事前に自社の投資計画と公募要領を照合することが欠かせません。
認証・ラベル制度の活用も、販路拡大とブランディングの両面で見逃せない選択肢です。Marine Stewardship Council(MSC)の加工段階認証であるCoC認証や、国内では農林水産省が推進する「生鮮食品等の品質管理・フードロス削減に関するガイドライン」への準拠は、バイヤーや小売からの信頼獲得につながります。
さらに環境省が後押しする「食品リサイクル認定制度」を活用すれば、魚骨・内臓などの未利用部位を飼料・肥料へ転換するリサイクルループを構築する際に、法的優遇措置を受けることも可能です。これらの制度は毎年要件が更新されるため、都道府県の水産加工振興センターや中小企業支援センターを定期的に訪問し、最新情報を収集する習慣を持つことが実務上の鍵となります。
まとめ──水産加工のフードロス削減は「コスト」ではなく「競争力」と捉えよう
水産加工の現場におけるフードロス削減は、「余計な手間とコスト」として敬遠されがちです。しかし本記事で見てきたように、未利用魚の加工品化・内臓や骨の高付加価値素材への転換・デジタル技術を活用した需給最適化など、廃棄ゼロに向けた取り組みはすべて新たな収益源や差別化要因につながっています。サステナビリティへの対応を求める国内外のバイヤーや消費者の目線が厳しくなる今、ロス削減への姿勢は企業の信頼性そのものを左右するとさえいえます。
「捨てるものをなくす」ことは、同時に「稼げるものを増やす」ことです。原料調達コストや廃棄処理費用の削減にとどまらず、ブランド価値の向上・輸出競争力の強化・ESG評価の改善といった複合的な効果が期待できます。水産加工業が直面する人手不足や原材料高騰といった構造的課題を乗り越えるうえでも、フードロス削減は経営の中核に据えるべき戦略です。まずは自社のバリューチェーンのどこに「もったいない」が潜んでいるかを棚卸しするところから、一歩を踏み出してみてください。
Ken’s eye
・水産加工現場では頭部・内臓・骨・規格外品など多岐にわたる廃棄が常態化しており、業界全体でのフードロス対策は急務である。
・未利用魚や廃棄部位はかつて「出るもの」として処理コストをかけて捨てられてきたが、いまやESG経営・食料安全保障の観点からその構造が強く問われている。
・規格外品・端材・内臓を資源と捉え直す3つのアプローチや6次産業化の活用により、廃棄物を新たな収益源へ転換できると考えられる。
・未利用魚を活用したビジネスモデルでは、加工・販売・ブランド化を一体的に設計することが、持続的な事業展開の鍵となる。
・フードロス削減への取り組みは「コスト負担」ではなく、補助金・認証制度も積極的に活用することで「事業の競争力」を高める戦略である。

