陸上養殖に取り組む企業一覧|注目10社の技術・魚種・参入モデルを解説

次世代養殖・バイオ

「陸上養殖に参入している企業って、実際どれくらいあるんだろう?」――そう気になって検索した方は多いのではないでしょうか。近年、サーモンやエビ、トラフグなど多彩な魚種を陸上で育てる企業が急増しており、スタートアップから大手総合商社、さらには鉄道会社やホームセンターまで、業種を問わず参入が相次いでいます。

本記事では、国内で陸上養殖に取り組む企業をスタートアップ編・大手企業編に分けて一覧で紹介するとともに、養殖方式の違いやメリット・デメリット、参入時の判断基準、市場の将来展望まで網羅的に解説します。陸上養殖企業の全体像を把握し、ビジネスの次の一手を考えるための情報がこの記事に詰まっています。ぜひ最後までお読みください。

世界の水産物需要と天然資源の限界

世界人口の増加と新興国の経済成長を背景に、水産物への需要は年々拡大を続けています。FAO(国際連合食糧農業機関)が公表した「世界漁業・養殖業白書2022」によると、2020年から2030年にかけて世界の水産物消費は約2,400万トン増加すると見込まれています。一方で、天然の水産資源は乱獲や海洋環境の変化により減少傾向にあり、漁獲量だけで増え続ける需要を満たすことは現実的に困難な状況です。こうした需給ギャップを埋める手段として、養殖業、とりわけ環境負荷が低く安定生産が可能な陸上養殖が世界中で注目を集めています。

参考:FAO「世界漁業・養殖業白書2022」

日本国内の漁業が抱える構造的な課題

日本国内に目を向けると、漁業は深刻な構造問題を抱えています。漁業就業者数は減少と高齢化が同時に進行しており、海面漁業の漁獲量も長期的な右肩下がりが続いています。政府は2032年度までに食用魚介類の自給率を94%まで引き上げる目標を掲げていますが、現状の自給率は約60%前後にとどまります。海面養殖だけでは生産拡大に限界があるなかで、漁業権を必要とせず異業種からも参入しやすい陸上養殖が、自給率向上と地方創生の両面から期待される存在となっています。

参考:農林水産省 漁業・養殖業生産統計

陸上養殖の届出件数662件が示す市場の急拡大

陸上養殖への参入がいかに加速しているかは、数字が如実に物語っています。水産庁は2023年4月に陸上養殖事業者の届出制度を導入しましたが、2024年1月時点での届出件数はすでに662件に達しました。水産庁の実態調査によると、新規参入は2016年頃から急増しており、2022年時点の累計事業者数は2015年比で倍増しています。次世代型養殖技術の国内市場規模も、2022年度のメーカー出荷金額ベースで約473億円、2027年度には約813億円に達する見通しです。陸上養殖はもはやニッチな試みではなく、本格的な産業としての成長フェーズに入っていると言えるでしょう。

参考:水産庁 陸上養殖に関する実態調査

    1. 世界の水産物需要と天然資源の限界
    2. 日本国内の漁業が抱える構造的な課題
    3. 陸上養殖の届出件数662件が示す市場の急拡大
  1. そもそも陸上養殖ってどんな仕組み?3つの方式を解説
    1. 閉鎖循環式(RAS)──水を再利用する最先端モデル
    2. かけ流し式──シンプルだが立地を選ぶ従来型
    3. 半閉鎖循環式──両者のハイブリッド型
  2. 陸上養殖に取り組む企業一覧【スタートアップ編】
    1. FRDジャパン──210億円調達でサーモン商業プラントを建設
    2. ARK──再エネ×小型RASで分散型養殖を推進
    3. アクアステージ──内陸でトラフグ・ヒラメを完全閉鎖循環で生産
    4. リージョナルフィッシュ──京大発ゲノム編集×スマート養殖
    5. さかなドリーム──ハイブリッド魚で新たな魚食体験を創出
  3. 陸上養殖に取り組む企業一覧【大手企業・異業種参入編】
    1. 三井物産・三菱商事・マルハニチロ──商社勢の大規模投資
    2. NTT×リージョナルフィッシュ──通信インフラと養殖の融合
    3. JR西日本「プロフィッシュ」──鉄道会社が挑む地方創生型養殖
    4. コーナン商事──ホームセンター駐車場でエビ養殖
    5. エア・ウォーター──陸上養殖プラットフォーム事業の構築
  4. 陸上養殖のメリット・デメリットを正直に比較する
    1. 環境負荷低減・安定供給・食品安全性の3つのメリット
    2. 初期投資・エネルギーコスト・販路確保の3つのデメリット
  5. 陸上養殖企業を選ぶとき・参入を検討するときの5つの判断基準
    1. 養殖方式と対象魚種の適合性
    2. 設備投資額と収益化までのタイムライン
    3. 技術パートナーやシステム提供元の実績
    4. 販路・ブランド戦略の有無
    5. 自治体連携・補助金活用の可能性
  6. 陸上養殖の市場は今後どうなる?将来展望と注目トレンド
    1. 国内市場規模は2027年度に813億円超の予測
    2. AI・IoT活用によるスマート養殖の進化
    3. 脱炭素・再エネとの融合が加速する理由
  7. まとめ──陸上養殖企業一覧を踏まえて次のアクションを考えよう
  8. Ken’s eye

そもそも陸上養殖ってどんな仕組み?3つの方式を解説

陸上養殖企業の一覧を見る前に、まず押さえておきたいのが養殖方式の違いです。陸上養殖には大きく3つの方式があり、それぞれにメリットと適した用途が異なります。企業選定やパートナー探しの際にも、どの方式を採用しているかは非常に重要な判断材料になります。

閉鎖循環式(RAS)──水を再利用する最先端モデル

閉鎖循環式養殖システム(RAS:Recirculating Aquaculture System)は、水槽内の水をろ過・浄化して繰り返し使用する方式です。水の再利用率は99%以上に達するシステムもあり、外部への排水をほぼゼロにできるため、環境負荷が極めて低いことが最大の特長です。海や河川が近くになくても運営でき、都市近郊や内陸部でも海水魚の養殖が可能になります。バクテリアによる生物ろ過や脱窒技術を組み合わせることで水質を精密に管理し、寄生虫リスクも大幅に低減できます。一方で、高度なろ過設備やモニタリングシステムが必要なため、初期投資額が大きくなる点は課題です。FRDジャパンやアクアステージなど、国内の主要な陸上養殖企業の多くがこの方式を採用しています。

かけ流し式──シンプルだが立地を選ぶ従来型

かけ流し式は、河川や地下水、湧水などを水槽に引き込み、使用した水をそのまま排出する方式です。設備構成がシンプルで初期投資を抑えやすいため、中小企業が参入しやすいモデルとして注目されています。実際に、船井総合研究所は中小企業の陸上養殖参入において、かけ流し式を推奨するレポートを公表しています。ただし、豊富な水源と適切な水温が確保できる立地が不可欠であり、排水処理にも配慮が必要です。マス類やイワナなど、冷水性の淡水魚の養殖で多く採用されています。

半閉鎖循環式──両者のハイブリッド型

半閉鎖循環式は、水の一部を循環・再利用しつつ、定期的に新しい水を補充する方式です。完全閉鎖循環式ほどの設備投資は不要でありながら、かけ流し式よりも水の使用量を抑え、水質管理の精度を高められるバランス型と言えます。初期コストと運用の安定性のバランスをとりたい事業者に適しており、トラフグやヒラメなどの海水魚養殖でも採用されるケースがあります。3つの方式のなかでは中間的なポジションですが、参入のハードルとリスクの兼ね合いで、実践的な選択肢として注目度が高まっています。

陸上養殖に取り組む企業一覧【スタートアップ編】

ここからは、陸上養殖に取り組む企業を具体的に紹介していきます。まずは、独自技術で業界を切り拓くスタートアップ企業です。それぞれの技術的特徴や資金調達状況、対象魚種を整理しました。

FRDジャパン──210億円調達でサーモン商業プラントを建設

FRDジャパンは、閉鎖循環式陸上養殖システムの開発・運営を手がけるスタートアップです。バクテリアを活用した独自のろ過技術を核に、海や河川を一切必要としないサーモントラウトの陸上養殖を実現しています。自社ブランド「おかそだち」として生産・販売しており、コープやセブン-イレブン(期間限定)などへの納入実績を持ちます。2023年7月には、三井物産やエア・ウォーターなど7社を引受先とする第三者割当増資と融資により総額210億円を調達。千葉県富津市に年間生産量3,500トン規模の商業プラントを建設し、2027年からの本格稼働を目指しています。三井物産の連結子会社であり、大手の信用力とスタートアップの機動力を兼ね備えた存在です。

参考:FRDジャパン公式サイト

ARK──再エネ×小型RASで分散型養殖を推進

ARK(アーク)は、再生可能エネルギーで稼働する小型閉鎖循環式陸上養殖システムを開発するスタートアップです。主力製品「ARK-V1」はわずか10㎡のスペースに設置可能で、太陽光発電と組み合わせることでエネルギーコストを大幅に削減できます。専用Webアプリによる遠隔管理機能を搭載し、藻類との混合養殖にも対応。大規模プラントとは対照的に、小規模分散型で陸上養殖を普及させるアプローチをとっている点がユニークです。2024年5月にはFuture Food Fundからの資金調達を実施しており、海外展開にも積極的な姿勢を見せています。

参考:ARK公式サイト

アクアステージ──内陸でトラフグ・ヒラメを完全閉鎖循環で生産

アクアステージは、完全閉鎖循環型陸上養殖システム「Re-QUA」を開発し、海から遠く離れた滋賀県の内陸部でトラフグやヒラメの養殖を行っている企業です。水の入れ替えなし(補水のみ)で運営できる点が大きな特長で、IoT技術を活用したスマートフォンからの水質管理・給餌も実現しています。レストランやホテルへの直接販売のほか、パートナー企業へのシステムレンタル・育成指導サービスも展開。2025年6月にはヤンマーホールディングスと資本業務提携を開始し、水質浄化ソリューションの共同開発を進めています。異業種からの参入を技術・運営の両面で支援できるプラットフォーム的な存在です。

参考:アクアステージ公式サイト

リージョナルフィッシュ──京大発ゲノム編集×スマート養殖

リージョナルフィッシュは、京都大学のゲノム編集研究と近畿大学の養殖技術を融合して設立されたベンチャー企業です。ゲノム編集による品種改良で、成長速度や可食部の歩留まりが向上した魚種を開発し、AIやIoTを活用したスマート養殖技術と組み合わせて生産効率を高めています。2023年にはNTTとの合弁会社「NTTグリーン&フード」を設立し、再生可能エネルギーや水質浄化プラントを含むサステナブルな陸上養殖システムの研究開発にも着手しました。品種改良技術と養殖自動化技術の両方を持つ点で、国内でも類を見ないポジションを確立しています。

参考:リージョナルフィッシュ公式サイト

さかなドリーム──ハイブリッド魚で新たな魚食体験を創出

さかなドリームは、異なる種類の魚を掛け合わせる「ハイブリッド化」と、生殖幹細胞を別の魚に移植する「代理親魚技法」という2つの技術を駆使して、これまで養殖が困難だった魚種の安定生産に取り組む水産スタートアップです。味の良さと養殖のしやすさを兼ね備えた新しい魚を生み出すことで、食卓に新たな選択肢を提供することを目指しています。2023年9月にはBeyond Next Venturesから約1.9億円のシード資金を調達し、2024年にはNEDOのディープテック・スタートアップ支援事業にも採択されました。陸上養殖の領域で「何を育てるか」というバリューチェーンの上流に挑む独自の立ち位置が特徴的です。

参考:さかなドリーム公式サイト

陸上養殖に取り組む企業一覧【大手企業・異業種参入編】

陸上養殖はスタートアップだけのフィールドではありません。総合商社、通信キャリア、鉄道会社、ホームセンターなど、異業種の大手企業が続々と参入しています。豊富な資金力・販路・インフラを武器にした大手の動きは、業界全体の成長を加速させる原動力です。

三井物産・三菱商事・マルハニチロ──商社勢の大規模投資

総合商社は陸上養殖領域において特に積極的な投資姿勢を見せています。三井物産はFRDジャパンを連結子会社として持ち、サーモントラウトの商業生産を全面的にバックアップしています。三菱商事とマルハニチロは2022年に合弁会社「アトランド」を設立し、富山県入善町でアトランティックサーモンの年間2,500トン規模の陸上養殖施設を建設、2027年の初出荷を計画しています。商社勢の参入が意味するのは、単なる養殖事業ではなく、飼料調達から加工・流通・販売まで一貫したサプライチェーンの構築です。陸上養殖の産業化において、商社の果たす役割は極めて大きいと言えます。

参考:三菱商事公式サイト三井物産公式サイト

NTT×リージョナルフィッシュ──通信インフラと養殖の融合

NTTは2023年7月、京大発ベンチャーであるリージョナルフィッシュと合弁会社「NTTグリーン&フード」を設立し、陸上養殖事業に本格参入しました。NTTが持つ通信・IoT・データ解析の技術基盤と、リージョナルフィッシュのゲノム編集・養殖ノウハウを組み合わせ、再生可能エネルギーの活用を含むサステナブルな陸上養殖システムの研究開発を進めています。通信キャリアが養殖に参入するという一見異色の組み合わせですが、養殖のスマート化にはセンシング・データ通信・AIが不可欠であり、NTTの技術資産と高い親和性があります。異業種連携による新しい陸上養殖のモデルケースとして注目されています。

JR西日本「プロフィッシュ」──鉄道会社が挑む地方創生型養殖

JR西日本は、地域の自治体や事業者と連携しながら陸上養殖事業に参入しています。水質に優れた自然由来の水にこだわり、適正管理下で持続的に育てた魚を「プロフィッシュ」というブランド名で展開。生産履歴の管理や各種検査による安心安全の担保を前面に打ち出し、複数の魚種を各地域のブランドのもとで販売しています。鉄道会社としての全国ネットワークと駅ナカ・駅チカの販売チャネルを活かせる点は、他の事業者にはない強みです。地方創生・地産地消の文脈で陸上養殖を位置づけている好例と言えるでしょう。

コーナン商事──ホームセンター駐車場でエビ養殖

ホームセンター大手のコーナン商事は2023年8月、子会社のコーナンビジネスイノベーション(KBI)を通じて、完全閉鎖型循環式のバナメイエビ陸上養殖事業を開始しました。特筆すべきは、養殖場所がホームセンター店舗の駐車場の一画であるという点です。アクアステージの技術協力のもとで運営されており、都市部の遊休スペースを活用した新しい陸上養殖のモデルを提示しています。本業であるホームセンターの集客力と、養殖で生産した水産物の直販を組み合わせる可能性を秘めた、異業種参入の象徴的な事例です。

エア・ウォーター──陸上養殖プラットフォーム事業の構築

産業ガス大手のエア・ウォーターは、養殖に不可欠な酸素やLPガスなどのエネルギー、人工海水といった消耗品を取り扱う既存事業の強みを活かし、陸上養殖プラットフォーム事業の確立を進めています。養殖プラントの設計から設備の運転、メンテナンスまでを一貫パッケージで提供するビジネスモデルが特徴です。北海道にサーモントラウトの陸上養殖拠点を構えるほか、遠隔監視・鮮度保持・食品分析といった技術も保有しています。陸上養殖を「自社でやる」のではなく「他社の養殖事業を支えるインフラを提供する」という立ち位置は、業界全体の裾野を広げる存在です。

参考:エア・ウォーター 陸上養殖事業ページ

陸上養殖のメリット・デメリットを正直に比較する

ここまで多くの陸上養殖企業を紹介してきましたが、当然ながら陸上養殖は万能ではありません。参入や投資を検討する上で、メリットだけでなくデメリットも正確に理解しておくことが不可欠です。ここでは率直に両面を比較します。

環境負荷低減・安定供給・食品安全性の3つのメリット

陸上養殖の第一のメリットは、環境負荷の低さです。特に閉鎖循環式では排水がほぼ発生せず、海洋汚染のリスクを最小限に抑えられます。餌の食べかすや排泄物が自然水域に流出する海面養殖の課題を根本的に解決できるのです。第二に、天候や海水温に左右されない安定供給が可能な点が挙げられます。台風や赤潮による被害リスクがなく、通年で計画的な生産ができることは、流通・小売業者にとっても大きな安心材料です。第三に、外部からの細菌やウイルス、寄生虫の侵入リスクが少なく、トレーサビリティも容易であるため、食品安全性の面でも優れています。消費者の食の安全意識が高まるなか、この点は今後さらに重要な競争力になると考えられます。

初期投資・エネルギーコスト・販路確保の3つのデメリット

一方で、陸上養殖の最大の課題は初期投資の大きさです。閉鎖循環式の大規模施設ともなると、設備投資は数億円から数十億円規模に及びます。FRDジャパンの210億円調達が示すように、商業スケールの実現には巨額の資金が必要です。第二に、水の循環・温度管理・ろ過に要するエネルギーコストも無視できません。電気代が経営を直接圧迫するため、再生可能エネルギーの活用やシステムの省エネ化が急務です。第三に、水産庁の調査によれば100トン以上の生産規模を持つ事業者は全体のわずか4%にすぎず、約9割が50トン未満の中小事業者。中小規模の事業者は販路開拓や価格競争で壁にぶつかるケースが多く、6次産業化や地域ブランド戦略との組み合わせが収益化の鍵を握ります。

陸上養殖企業を選ぶとき・参入を検討するときの5つの判断基準

陸上養殖企業の一覧を眺めたうえで「自社はどう動くべきか」を考える際には、明確な判断基準が必要です。ここでは、パートナー選定にも自社参入にも共通して使える5つの視点を提示します。

養殖方式と対象魚種の適合性

前述の通り、閉鎖循環式・かけ流し式・半閉鎖循環式ではコスト構造も適した魚種も大きく異なります。サーモンやトラフグのような高単価魚種を狙うなら閉鎖循環式が主流ですが、初期投資を抑えてスモールスタートしたいなら、かけ流し式で冷水性魚種から始めるのも現実的な選択です。「何を、どの方式で育てるか」が事業の根幹になるため、まずこの軸を明確にすることが重要です。

設備投資額と収益化までのタイムライン

陸上養殖は「投資してからリターンが出るまで」のリードタイムが長い事業です。大規模RASプラントの場合、建設から本格稼働まで数年を要し、損益分岐点に達するにはさらに時間がかかります。自社の資金体力やキャッシュフロー計画と照らし合わせ、現実的なタイムラインを描けるかどうかを見極める必要があります。

技術パートナーやシステム提供元の実績

陸上養殖は高度な水処理技術・センシング技術・生物学の知見が求められるため、信頼できる技術パートナーの有無が成否を分けます。アクアステージのようにシステムレンタルと育成指導をセットで提供する企業や、エア・ウォーターのようにプラント設計からメンテナンスまで一貫して引き受ける企業の存在は、異業種からの参入ハードルを大幅に下げてくれます。実績ベースでパートナーを選定する視点が欠かせません。

販路・ブランド戦略の有無

中小規模の陸上養殖事業者がもっとも苦しむのが販路の確保です。「育てたはいいが、どこに売るのか」は切実な問題であり、地域の飲食店やホテルへの直販、ECサイトの活用、地域ブランドの構築など、生産前から出口戦略を設計しておく必要があります。JR西日本の「プロフィッシュ」のように、販売チャネルと一体で養殖事業を設計している事例は参考になるでしょう。

自治体連携・補助金活用の可能性

陸上養殖は地方創生や食料安全保障の文脈で国や自治体からの支援を受けやすい分野です。遊休施設(廃校・工場跡地など)の活用に対する支援制度や、農林水産省関連の補助金、NEDOのスタートアップ支援事業など、活用可能な制度は少なくありません。とくに地方自治体は雇用創出や地域ブランド創出の効果を期待して、陸上養殖プロジェクトへのインフラ整備支援を行うケースが増えています。こうした公的支援をうまく組み合わせることで、初期投資の負担を軽減し、事業の実現可能性を高めることができます。

陸上養殖の市場は今後どうなる?将来展望と注目トレンド

陸上養殖企業の一覧を把握したところで、この市場が今後どのような方向に進むのかを見ておきましょう。技術革新と市場拡大の両面から、3つの注目トレンドを解説します。

国内市場規模は2027年度に813億円超の予測

矢野経済研究所の調査によると、次世代型養殖技術の国内市場規模は2022年度の約473億円から、2027年度には約813億円へと約1.7倍に拡大する見通しです。また、みずほ銀行産業調査部のレポートでは、陸上養殖水産物の国内生産量が2030年度には約4万トン規模に成長するとの推計も示されています。世界市場に目を向けると、2024年の陸上養殖市場は約58億ドル規模であり、2033年には214億ドルに達するとの予測もあります。国内外ともに、陸上養殖は明確な成長産業として位置づけられています。

参考:矢野経済研究所 養殖ビジネス市場調査みずほ銀行産業調査部レポート

AI・IoT活用によるスマート養殖の進化

陸上養殖の効率化と省人化を推進するのが、AI・IoT技術の導入です。水温・溶存酸素・pH・アンモニア濃度などをセンサーでリアルタイム監視し、AIが最適な給餌量やタイミングを自動制御するシステムが実用化されています。富士通が開発した養殖管理システム「Fishtech養殖管理」は、カメラによる遠隔監視やマルチデバイスでの作業管理、生体のトレーサビリティ管理まで一括対応しています。こうしたスマート養殖技術が普及することで、水産業の経験がない異業種企業でも陸上養殖に参入しやすくなり、業界全体の裾野がさらに広がっていくと考えられます。

脱炭素・再エネとの融合が加速する理由

陸上養殖のエネルギーコスト問題を解決するカギとして、再生可能エネルギーとの融合が急速に進んでいます。ARKのように太陽光発電と組み合わせた小型RASシステムを開発する企業や、NTTグリーン&フードのように再エネ活用を前提としたサステナブル養殖モデルを研究する動きが拡大中です。脱炭素が企業経営の必須要件となるなかで、「環境に優しい養殖」は消費者へのブランド訴求にも直結します。ESG投資やサステナビリティ経営の潮流とも合致するため、再エネ×陸上養殖の組み合わせは今後さらに加速していくでしょう。

まとめ──陸上養殖企業一覧を踏まえて次のアクションを考えよう

本記事では、陸上養殖企業の一覧をスタートアップ・大手企業に分けて紹介するとともに、養殖方式の違い、メリット・デメリット、参入時の判断基準、そして市場の将来展望まで網羅的に解説してきました。

陸上養殖は、水産資源の減少、漁業従事者の高齢化、食料安全保障への意識の高まりといった複合的な課題を背景に、確実に成長を続けている分野です。届出件数662件という数字が示す通り、国内だけでもすでに数百の事業者が参入しており、その顔ぶれもスタートアップから商社、通信キャリア、鉄道会社、ホームセンターまで実に多様です。

重要なのは、単に「どんな企業があるか」を知ることにとどまらず、自社の事業戦略のなかで陸上養殖をどう位置づけるかを考えることです。パートナーとして技術提供企業を探すのか、自社で養殖事業に参入するのか、あるいは設備やサービスの提供側として関わるのか。本記事の企業一覧と判断基準を手がかりに、次のアクションにつなげていただければ幸いです。

Ken’s eye

  • 陸上養殖は、世界的な水産物需要の拡大と天然資源の限界を背景に、国内届出件数662件を超えるなど産業としての成長フェーズに入っており、次世代型養殖技術の国内市場は2027年度に約813億円規模への拡大が見込まれると考えられる
  • 閉鎖循環式(RAS)・かけ流し式・半閉鎖循環式の3方式はそれぞれコスト構造と適した魚種が異なるため、参入検討時には事業規模・資金体力・立地条件に合わせた方式選定が最初の意思決定になると考えられる
  • FRDジャパン、ARK、アクアステージ、リージョナルフィッシュなどのスタートアップが独自技術で業界を牽引する一方、三井物産・三菱商事・NTT・JR西日本など大手異業種の参入がサプライチェーン全体の産業化を加速させているのが現状だ
  • 初期投資の大きさ、エネルギーコスト、販路確保は陸上養殖の三大課題であり、再生可能エネルギーの活用・AI/IoTによるスマート養殖・6次産業化による収益多角化が課題解決の方向性として有力だ
  • 陸上養殖企業の選定や自社参入の可否判断には、養殖方式と魚種の適合性、収益化までのタイムライン、技術パートナーの実績、販路戦略、自治体連携・補助金活用の5軸で評価することが実践的だと考えられる
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