ブルーエコノミーのビジネスモデルとは?国内外10社の事例と参入ステップ

ブルーカーボン・環境保全

「ブルーエコノミーって結局、自社のビジネスにどう関係があるの?」「具体的にどの企業がどんな収益モデルで動いているの?」――こうした疑問を抱えている経営企画担当者や新規事業責任者は、いま急速に増えています。

ブルーエコノミーとは、海洋資源を持続可能な形で活用しながら経済成長と環境保全を両立させる経済活動のことです。OECD(経済協力開発機構)は、この市場が2030年までに約3兆ドル(約450兆円超)規模に倍増すると予測しています。にもかかわらず、「定義はわかった。でも、具体的に何をすればいいのかわからない」というのが多くのビジネスパーソンの本音ではないでしょうか。

この記事では、ブルーエコノミーのビジネス領域を5つのセクターに整理した上で、実際に参入している日本企業7社・海外企業3社のビジネスモデルを徹底分析します。さらに、参入時に直面するリスクと、企業が今日から踏み出せる4つのステップまで具体的に解説します。「概念の理解」から「実際のアクション」への橋渡しとなる一本です。

※ブルーエコノミーの定義・歴史・制度の全体像については、「ブルーエコノミーとは?定義・歴史から最新動向まで徹底解説」で詳しく解説しています。

  1. ブルーエコノミーがビジネスとして注目される5つの理由って何?
    1. 海洋経済の市場規模が2030年に3兆ドルへ倍増する見通し
    2. ESG投資・ブルーファイナンスの資金がビジネスを後押し
    3. 政策と法整備が企業参入のハードルを下げている
    4. ネイチャーポジティブ(TNFD)が企業に「海洋戦略」を迫っている
    5. 「環境保全=コスト」から「環境保全=収益源」へのパラダイム転換
  2. ブルーエコノミーのビジネス領域を整理する――5つの成長セクターと市場動向
    1. 次世代養殖・フードテック
    2. 海洋再生可能エネルギー(洋上風力発電)
    3. ブルーカーボン・クレジット市場
    4. 海運・脱炭素(ゼロエミッション船)
    5. 海洋データ・ロボティクス
  3. ブルーエコノミーに取り組む日本企業7社のビジネスモデルを徹底分析
    1. マルハニチロ――国内初ブルーボンド50億円発行と陸上養殖戦略
    2. ニッスイ――混獲削減技術(PSH漁法)で持続可能な調達を差別化
    3. 鹿島建設――藻場再生×Jブルークレジット取得で建設業にブルーを実装
    4. 株式会社イノカ――マングローブ再生スタートアップの収益設計
    5. 商船三井(MOL PLUS)――波力発電スタートアップ出資で海洋エネルギーに布石
    6. 東洋建設――作業船CO2回収・固定化技術で海上工事のカーボンニュートラルに挑む
    7. 株式会社ダイセル――海洋分解性素材で海洋プラスチック問題にビジネスで挑む
  4. 海外企業に学ぶブルーエコノミーの先進ビジネスモデル3選
    1. Ørsted(オーステッド)――石油企業から洋上風力トップへの大転換
    2. セーシェル・ブルーボンドモデル――国家ぐるみの資金調達戦略
    3. Mocean Energy――波力発電×CCS市場で脱炭素インフラの覇権を狙う
  5. ブルーエコノミーのビジネス参入で知っておくべき3つのリスクと対策
    1. 漁業権・既存産業との利害調整リスク
    2. 初期コストの重さと投資回収の不透明さ
    3. 海洋環境アセスメントのハードルと時間的コスト
  6. 企業がブルーエコノミーに参入するための4つのステップ
    1. 自社の事業とブルーエコノミーの接点を洗い出す
    2. 小さく始める――ブルーカーボン・クレジット購入からの参入
    3. アライアンス戦略――産官学連携で参入障壁を下げる
    4. TNFD対応を起点にした「攻めの情報開示」で投資を呼び込む
  7. まとめ――ブルーエコノミーは「守り」のCSRではなく「攻め」の成長戦略
  8. Ken’s eye

ブルーエコノミーがビジネスとして注目される5つの理由って何?

ブルーエコノミーが環境保全の文脈だけでなく、企業の成長戦略として注目される背景には、明確な経済合理性があります。ここでは、企業がブルーエコノミーをビジネスとして検討すべき5つの構造的な理由を整理します。

海洋経済の市場規模が2030年に3兆ドルへ倍増する見通し

最大の理由は、市場そのものの急拡大です。OECDの予測によれば、ブルーエコノミーの世界市場規模は2010年の1.5兆ドルから、2030年には約3兆ドル規模へと倍増する見通しです。特に成長を牽引しているのが、洋上風力発電をはじめとする海洋再生可能エネルギー、海洋バイオテクノロジー、そしてデータドリブンな次世代養殖の3領域です。日本企業にとっても、世界第6位の排他的経済水域(EEZ)を持つ地理的優位性を活かせる市場として、参入ポテンシャルは極めて大きいと言えます。

参考:OECD|Ocean

ESG投資・ブルーファイナンスの資金がビジネスを後押し

ブルーエコノミー関連のビジネスには、急速に拡大するESG資金が流入しています。世界銀行のマルチドナー信託基金「PROBLUE」は、2024年3月までに100を超える国・地域で247の活動を支援し、民間投資の呼び水として機能しています。国内でも、マルハニチロが2022年に国内初となるブルーボンド(50億円)を発行して以降、海運・商社・金融機関によるブルーボンドの発行額は年々増加しています。資金調達の選択肢が広がっていること自体が、企業にとっての参入障壁を大きく引き下げています。

参考:World Bank|PROBLUE Overview

政策と法整備が企業参入のハードルを下げている

日本政府は2023年に閣議決定した第4期海洋基本計画において、洋上風力発電の導入拡大、ブルーカーボンの活用推進、海洋プラスチックごみ対策などを国家戦略として位置づけました。さらに、EEZでの洋上風力発電やCCS(二酸化炭素回収・貯留)の商業利用に向けた法整備も進められています。こうした政策の後押しにより、企業は実証実験から社会実装へとステップアップしやすい環境が整いつつあります。

参考:内閣府|第4期海洋基本計画

ネイチャーポジティブ(TNFD)が企業に「海洋戦略」を迫っている

2023年以降、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みが本格化したことで、企業は気候変動だけでなく「自社の事業が海洋資源や生物多様性にどう依存し、どのような影響を与えているか」のデータ開示を求められるようになりました。サプライチェーンの多くを海洋資源に依存する日本企業にとって、これは単なるコンプライアンス対応ではなく、事業ポートフォリオの再構築と新規事業創出のきっかけになります。ブルーエコノミーへの取り組みは、TNFDへの「攻めの対応」として投資家からの評価にも直結します。

参考:TNFD公式サイト

「環境保全=コスト」から「環境保全=収益源」へのパラダイム転換

かつて環境保全活動は「コストセンター」として捉えられていました。しかし現在は、藻場や干潟の再生がカーボンクレジットとして売買可能になり、海洋保全そのものが「収益を生む事業」に変わりつつあります。日本では、Jブルークレジットの取引価格がCO2 1トンあたり7万〜8万円と、Jクレジットの数倍の高値で推移しており、100社以上の企業が購入に殺到しています。環境貢献が直接的な経済リターンに結びつくこの構造変化が、ブルーエコノミーをビジネスとして加速させている最大の要因です。

参考:日刊工業新聞|購入殺到で価格9倍…「Jブルークレジット」活況の要因

ブルーエコノミーのビジネス領域を整理する――5つの成長セクターと市場動向

ブルーエコノミーは非常に広範な産業領域をカバーしますが、現在グローバルなESG資金や政策支援が集中しているのは、主に以下の5つのセクターです。自社の強みとどの領域が接続するかを見極めることが、参入戦略の第一歩になります。

次世代養殖・フードテック

世界的な人口増加に伴う「タンパク質危機」への対応策として、陸上養殖やAI給餌システム、代替シーフードへの投資が急増しています。従来の海面養殖と異なり、陸上養殖は環境負荷を大幅に低減できるため、ESG投資家からの評価が高い領域です。日本でもサーモンの陸上養殖施設が各地で稼働を開始しており、水産大手から食品スタートアップまで幅広いプレイヤーが参入しています。市場成長だけでなく、食料安全保障という国家的課題とも直結するため、政策支援の恩恵も大きいセクターです。

海洋再生可能エネルギー(洋上風力発電)

洋上風力発電は、脱炭素社会実現の切り札として世界的に導入が加速しています。2024年には累積導入量が世界全体で83.2GWに達し、2025年には100GW近くに拡大する見通しです。特に、遠浅の海が少ない日本では「浮体式洋上風力」に巨大なポテンシャルがあり、政府は2040年までに30〜45GWの導入目標を掲げています。風車の設置・保守に関わる専用船、海底ケーブル敷設、送電インフラまで含めると、裾野の広いサプライチェーンが形成される領域です。

参考:自然エネルギー財団|洋上風力発電の動向2025

ブルーカーボン・クレジット市場

藻場・干潟・マングローブなどの海洋生態系がCO2を吸収・貯留する「ブルーカーボン」を、クレジットとして売買する市場が急拡大しています。

日本ではJBE(ジャパンブルーエコノミー技術研究組合)が運営するJブルークレジット制度の認証プロジェクトが、2020年の1件から2023年には29件へと急増しました。企業のカーボンニュートラル宣言の増加に伴い、「環境保全活動そのものが収益化できる」というビジネスモデルとして確立しつつあります。

参考:JBE|Jブルークレジット認証・発行

海運・脱炭素(ゼロエミッション船)

国際海事機関(IMO)が2050年頃のGHG排出実質ゼロ目標を掲げたことで、世界の船隊リプレイス需要が急拡大しています。

グリーンアンモニアや水素、メタノールを代替燃料とするゼロエミッション船の開発・建造は、日本の造船技術が優位性を発揮できる領域です。燃料転換に伴うインフラ整備(供給設備、港湾改修)まで含めると、関連ビジネスの幅は極めて広くなります。

海洋データ・ロボティクス

AUV(自律型無人潜水機)やROV(遠隔操作型無人潜水機)、海洋モニタリング衛星など、海洋データを取得・分析する技術は、上記4つのセクターすべてを下支えする基盤技術です。

洋上風力の海底地盤調査、養殖場の環境モニタリング、ブルーカーボンの吸収量測定など、あらゆる海洋ビジネスにデータの可視化は不可欠です。テクノロジー企業にとって、海洋は「まだデジタル化されていない最大のフロンティア」であり、参入余地は大きいと言えます。

ブルーエコノミーに取り組む日本企業7社のビジネスモデルを徹底分析

ブルーエコノミーのビジネスに取り組む日本企業は、大手水産企業からスタートアップまで多岐にわたります。ここでは、参入領域も収益モデルも異なる7社を取り上げ、それぞれの戦略の狙いとビジネスモデルの特徴を分析します。

マルハニチロ――国内初ブルーボンド50億円発行と陸上養殖戦略

マルハニチロは2022年に国内初のブルーボンド(50億円)を発行し、その資金を陸上養殖事業に充当しました。従来、水産大手の資金調達は一般的な社債が中心でしたが、ブルーボンドを活用することで「使途が海洋保全に限定される」透明性の高い調達を実現し、ESG投資家の評価を獲得しています。このモデルは、資金調達そのものをサステナビリティ戦略と一体化させた先進事例であり、他の水産企業にも波及しています。

参考:マルハニチロ|本邦初となる「ブルーボンド」発行に関するお知らせ

ニッスイ――混獲削減技術(PSH漁法)で持続可能な調達を差別化

大手水産企業のニッスイは、目的外の魚種が網にかかる「混獲」を削減するPSH漁法を独自開発しました。漁具の網目サイズを工夫し、小型魚や対象外の生物を逃がす仕組みです。この技術は単なるCSR活動ではなく、「持続可能な調達」を実現することでサプライチェーンの安定性を担保し、中長期的な事業リスクを低減する戦略です。

ESG評価においても「水産資源の持続的利用」は重要な評価項目であり、投資家向けの差別化要因として機能しています。

参考:ニッスイ|天然水産資源の持続的な利用

鹿島建設――藻場再生×Jブルークレジット取得で建設業にブルーを実装

総合建設会社の鹿島建設は、「葉山アマモ協議会」のメンバーとして、独自開発の藻場再生技術を活用し、カジメ場・ワカメ場・ヒジキ場で合計49.7トンCO2/年のJブルークレジット取得に貢献しました。

建設業の本業と海洋保全を結びつけ、クレジットという形で「環境貢献を収益化」する仕組みは、異業種からのブルーエコノミー参入モデルとして注目されています。建設会社が持つ土木技術が、藻場造成や海岸インフラ整備にそのまま転用できる点が強みです。

参考:鹿島建設|藻場再生技術で49.7t-CO2/年のJブルークレジット取得に貢献

株式会社イノカ――マングローブ再生スタートアップの収益設計

環境テック・スタートアップの株式会社イノカは、独自の「環境移送技術」を用いてマングローブ生態系を水槽内に精密に再現するビジネスを展開しています。

企業が持つ技術や副産物を活用した成長促進効果の実証研究を可能にし、「ブルーフォレストプロジェクト」として保全と研究を一体化しました。スタートアップならではの機動力で、大企業との共同研究やコンサルティングを収益源とするモデルです。経済産業省のスタートアップ支援プログラム「J-Startup」にも選定されています。

参考:イノカ|ブルーフォレストプロジェクト

商船三井(MOL PLUS)――波力発電スタートアップ出資で海洋エネルギーに布石

商船三井グループのスタートアップ投資会社MOL PLUSは、英国の波力発電企業Mocean Energyへ出資し、相互協力の覚書を締結しました。

Moceanは波の振動を利用して海中の検査・保守機器に電力を供給するデバイスを開発しており、CCS(CO2回収・貯留)市場への電力供給を狙っています。

海運大手が本業の知見を活かしてオーシャンテック企業へ戦略投資を行うモデルは、自社で一から開発するよりもスピーディーに新領域へ参入できる手法として参考になります。

参考:MOL PLUS|英Mocean Energy社との覚書締結

東洋建設――作業船CO2回収・固定化技術で海上工事のカーボンニュートラルに挑む

海洋土木に強みを持つ東洋建設は、作業船から排出されるCO2を船上で回収・固定化する技術開発を進めています。

陸上での実証実験では、ディーゼル発電機から排出されたCO2を回収して液化炭酸ガスとドライアイスを製造し、セメントスラリーに混入してCO2を固定化することに成功しました。海上工事は陸上と比べてCO2排出削減の選択肢が限られるため、この技術は同業他社への技術ライセンスやコンサルティング収益にもつながる可能性を秘めています。

参考:東洋建設|気候変動への取り組み

株式会社ダイセル――海洋分解性素材で海洋プラスチック問題にビジネスで挑む

化学品事業者のダイセルは、海洋分解性に優れた天然由来素材「CAFBLO(キャフブロ)」を開発しています。

木材由来のセルロースと酢酸から製造され、プラスチックと同様に加工できる一方、海中では水と微生物の働きで自然に分解されます。海洋プラスチックごみ問題への解決策として、漁業用資材や食品包装材への用途開拓を進めており、「環境課題を素材ビジネスで解く」という化学メーカーならではの参入モデルです。

参考:ダイセル|海洋分解性に優れた天然由来素材

海外企業に学ぶブルーエコノミーの先進ビジネスモデル3選

日本企業が参入戦略を考える上で、海外の先行事例は極めて有力な判断材料になります。ここでは、ビジネスモデルの転換・金融スキーム・技術革新の3パターンから、参考になる海外企業・事例を紹介します。

Ørsted(オーステッド)――石油企業から洋上風力トップへの大転換

デンマークのオーステッドは、かつて「DONG Energy」という石油・ガス企業でした。しかし、化石燃料事業を完全に売却し、洋上風力発電に経営資源を集中。

現在では世界の洋上風力市場で約25%のシェアを持つグローバルリーダーへと変貌を遂げました。このケースが示すのは、ブルーエコノミーにおいて「既存事業からの大胆なピボット(転換)」が、圧倒的な先行者利益を生むということです。ただし、近年はインフレやサプライチェーンの混乱により複数の大型プロジェクトを中止し、2027年末までに約2,000人の人員削減を発表するなど、急拡大に伴うリスクも顕在化しています。

成長市場であっても、コスト管理と事業ポートフォリオの柔軟な見直しが不可欠であることを示す教訓的な事例でもあります。

参考:Ørsted日本語サイト

セーシェル・ブルーボンドモデル――国家ぐるみの資金調達戦略

インド洋の島国セーシェル共和国は、2018年に世界初のソブリン・ブルーボンド(国債)を発行しました。調達資金は持続可能な漁業管理と海洋保護区の拡大に充当され、世界銀行の部分保証がリスク低減を担保するスキームです。

この成功は、「海洋保全を債券市場と結びつけることで、環境コストを投資リターンに転換できる」という概念実証(PoC)となり、その後の世界的なブルーボンド市場拡大のきっかけになりました。日本企業にとっても、ブルーボンドによる資金調達は有力な選択肢です。

参考:世界銀行|セーシェル、世界初のソブリン・ブルー・ボンドを発行

Mocean Energy――波力発電×CCS市場で脱炭素インフラの覇権を狙う

英国のMocean Energyは、波の振動から電力を生成するデバイスを開発し、海中のCCS設備や検査・保守機器への電力供給に特化しています。

洋上の「オフグリッド電源」というニッチ市場を的確に捉え、CCSという成長市場の裏側にあるインフラ需要に応えるビジネスモデルです。大手海運企業(商船三井)からの出資を取り付けた資金調達戦略も含め、スタートアップがブルーエコノミー領域で勝ち筋を見出すための参考になる事例です。

参考:MOL PLUS|Mocean Energy社との協力

ブルーエコノミーのビジネス参入で知っておくべき3つのリスクと対策

ブルーエコノミーは成長市場ですが、「成長市場=低リスク」ではありません。先行者が直面したリアルなリスクを理解しておくことが、持続的な参入の鍵になります。

漁業権・既存産業との利害調整リスク

ブルーエコノミーのビジネスで最も頻繁に発生するのが、既存の漁業関係者との利害調整です。例えば、青森県の洋上風力計画では、マグロ漁業者が利害関係者としての参加を求め、計画が頓挫した事例があります。

海域は多様なステークホルダーが利用する「共有資源」であるため、陸上の事業開発とは比較にならないほど合意形成に時間がかかります。事前の丁寧な対話と、漁業振興との両立を設計に組み込むことが不可欠です。

初期コストの重さと投資回収の不透明さ

洋上風力発電所の建設や大規模な陸上養殖施設の整備には、数百億〜数千億円規模の初期投資が必要です。オーステッドの事例が示すように、金利上昇やインフレ、サプライチェーンの混乱で事業費が想定を超えると、減損処理や計画中止に追い込まれるリスクがあります。

2024年には世界の洋上風力発電への新規投資が前年比35%減少するなど、マクロ環境の変動には注意が必要です。段階的な投資とリスクシェアの仕組み(コンソーシアム方式やブルーボンドの活用など)を検討すべきです。

海洋環境アセスメントのハードルと時間的コスト

海洋での事業開発には、環境影響評価(環境アセスメント)が義務づけられるケースが多く、その手続きには数年単位の時間がかかります。

特に、洋上風力や海底資源開発では、海洋生態系への影響を事前に評価し、地域住民や自治体との協議を経る必要があります。日本では2023年に採択されたBBNJ協定(国連公海等生物多様性協定)により、公海での環境影響評価がさらに厳格化する流れにあります。スケジュール設計において、このリードタイムを織り込んだ事業計画が求められます。

企業がブルーエコノミーに参入するための4つのステップ

「ブルーエコノミーに興味はあるが、何から始めればいいかわからない」という企業に向けて、段階的な参入ステップを整理します。いきなり大規模投資をする必要はありません。小さく始めて、知見とネットワークを蓄積していくアプローチが有効です。

自社の事業とブルーエコノミーの接点を洗い出す

まず取り組むべきは、自社の既存事業やサプライチェーンが海洋とどう関わっているかの棚卸しです。水産物を扱う食品企業だけでなく、物流(海運)、エネルギー、化学素材、建設、IT・データ分析など、海洋と接点を持つ産業は非常に広範です。TNFDのフレームワークを活用して「自社と海洋の依存関係・影響」を可視化することが、参入領域の特定に直結します。

小さく始める――ブルーカーボン・クレジット購入からの参入

最もハードルが低い参入方法は、Jブルークレジットの購入です。自社のカーボンオフセットに活用できるだけでなく、「海洋保全への貢献」というストーリーをステークホルダー向けに発信できます。JBEの公募に申し込むことで購入可能であり、初期投資は比較的少額で済みます。

まずはクレジット購入を通じてブルーカーボンのエコシステムに触れ、そこから「作る側」への参入を検討するのが現実的なステップです。

アライアンス戦略――産官学連携で参入障壁を下げる

ブルーエコノミーは、単独企業だけで完結しにくい領域です。

長崎県の「ながさきBLUEエコノミー」プロジェクトのように、自治体・大学・企業が連携して養殖DXを推進するモデルや、鹿島建設のように地元漁協・ダイバー・学校と連携して藻場再生を行うモデルが成功しています。自社にない知見やネットワークは、アライアンスで補完するのが最も効率的です。JBEが運営する「ジャパン・ブルーエコノミー推進研究会」など、情報交換の場への参加も有効な第一歩です。

TNFD対応を起点にした「攻めの情報開示」で投資を呼び込む

最終的に目指すべきは、ブルーエコノミーへの取り組みを自社の競争優位として投資家に訴求することです。TNFD対応を「義務」としてではなく「攻めの情報開示」として位置づけ、海洋への依存度と取り組みの進捗をデータで示すことで、ESG投資家からの評価向上と資金調達コストの低減(ブルーミアム)を実現できます。

マルハニチロのブルーボンド発行がまさにこのモデルであり、「海洋戦略を持つ企業」は資本市場での差別化が可能になります。

まとめ――ブルーエコノミーは「守り」のCSRではなく「攻め」の成長戦略

ブルーエコノミーのビジネスは、もはや一部の水産企業やエネルギー企業だけのものではありません。建設、化学、IT、金融――あらゆる業界の企業が、自社の強みを海洋という巨大なフロンティアに接続し始めています。

本記事で紹介したように、マルハニチロはブルーボンドで資金調達と海洋戦略を一体化させ、鹿島建設は藻場再生を通じて本業の建設技術を新たな収益源に変え、スタートアップのイノカは環境移送技術で大企業との共同研究を収益化しています。

それぞれのアプローチは異なりますが、共通しているのは「海洋保全をコストではなくビジネスとして設計している」という点です。

もちろん、漁業権の調整、初期コストの重さ、環境アセスメントの時間的コストといったリスクは無視できません。しかし、2030年に3兆ドルへ拡大する市場、ESG資金の流入、そして政策の後押しという追い風がある今こそ、「小さく始めて、知見を蓄積し、段階的にスケールする」アプローチでブルーエコノミーのビジネスに踏み出す好機です。

ブルーエコノミーの全体像や制度の詳細を確認したい方は、「ブルーエコノミーとは?定義・歴史から最新動向まで徹底解説」もあわせてご覧ください。

Ken’s eye

  • ブルーエコノミーの世界市場は2030年に約3兆ドル規模へ拡大が見込まれ、次世代養殖・洋上風力・ブルーカーボン・海運脱炭素・海洋データの5セクターに企業の参入チャンスが集中していると考えられる
  • マルハニチロのブルーボンド発行、鹿島建設の藻場再生クレジット取得、オーステッドの石油から洋上風力への転換など、業界を問わず多様な企業がブルーエコノミーで独自のビジネスモデルを確立しているのは事実だ
  • Jブルークレジットの取引価格はCO2 1トンあたり7万〜8万円とJクレジットの数倍で推移しており、海洋保全活動そのものが収益化できるフェーズに入ったと考えられる
  • 漁業権の利害調整、初期投資コストの重さ、環境アセスメントの長期化は、ブルーエコノミー参入における主要なリスクであり、段階的な投資と産官学連携によるリスク分散が不可欠だ
  • TNFD対応やブルーボンドの活用を「攻めの情報開示」として位置づけ、ESG投資家からの資金調達を有利にすることが、ブルーエコノミーにおける企業の競争優位につながると考えられる
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